事務所を賃貸にした方が良いか、購入した方が良いか
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事業を運営する上で、事務所は経営の根幹をなす重要な要素です。特に、事業の成長や法人化を機に「事務所を賃貸し続けるか、いっそ購入すべきか」という経営判断に直面するケースは少なくありません。
この選択は、日々の利便性だけでなく、企業のキャッシュフローや税負担、さらには長期的な資産形成戦略にまで大きな影響を及ぼします。
本記事では、事務所の「賃貸」と「購入」それぞれについて、税務上のメリットとデメリットを挙げていずれが有利となるのか解説します。短期的な節税効果だけでなく、将来の事業展開まで見据えた最適な選択をするための一助となれば幸いです。
賃貸によるメリット・デメリット
まずは、多くの企業が選択する「賃貸」のケースから見ていきましょう。
賃貸のメリット
購入に比べて、敷金・保証金、礼金、仲介手数料などで済むため、初期投資を大幅に抑えられます。 これにより、事業の立ち上げ期や成長期において貴重な手元資金を運転資金や設備投資に回すことができ、安定したキャッシュフローを維持しやすくなります。
毎月支払う家賃は、会計上「地代家賃」などの勘定科目で費用計上します。
税務上も、その全額が原則として損金に算入されるため、課税対象となる所得を圧縮し、法人税等の負担を直接的に軽減します。
また、消費税の課税事業者であれば、家賃に含まれる消費税額は仕入税額控除の対象となり、納税額を抑える効果もあります。
事業の拡大に伴う人員増加や、逆に事業縮小による拠点の最適化など、企業の状況変化に応じて事務所の移転が容易です。
将来の予測が難しい現代において、この「身軽さ」は大きな経営上のメリットと言えるでしょう。
また、建物の維持管理や大規模修繕はオーナーの責任で行われるため、突発的な修繕費の発生リスクを回避できます。
賃貸のデメリット
最大のデメリットは、いくら家賃を支払い続けても自社の資産にはならない点です。
長期的に見れば、総支払額が物件の購入価格を上回るケースも少なくありません。
将来的な売却益や、不動産を担保とした資金調達の道は閉ざされます。
契約更新のタイミングで賃料が値上げされるリスクや、更新料の支払いが発生します。
また、オーナーの都合で立ち退きを求められる可能性もゼロではなく、長期的に安定した事業基盤を築く上での不安要素となり得ます。
購入によるメリット・デメリット
次に、事務所を自社資産として「購入」するケースを所有形態別に解説します。
法人が購入する場合
法人が自己資金や融資を利用して事業用の不動産を取得する、最も一般的な形態です。
法人が購入するメリット
土地・建物が企業の資産となり、貸借対照表が充実します。
これにより、金融機関からの信用力が高まり、将来の融資審査において有利に働く可能性があります。
また、所有不動産を担保に設定することで、より大きな資金調達も可能になります。
購入した資産のうち、建物部分は「減価償却」により、法律で定められた耐用年数にわたって毎年分割して費用計上することが出来ます。
土地は経年劣化しないため減価償却の対象外ですが、建物価格を長期にわたって経費化できるため、安定した節税効果が期待できます。
ローンの支払利息、毎年課税される固定資産税・都市計画税、火災保険料、修繕費といった維持管理コストも、すべて法人の経費として計上可能です。
法人が購入するデメリット
物件価格そのものに加え、不動産取得税、登録免許税、司法書士報酬、仲介手数料といった経費が発生し、多額の自己資金が必要です。
これにより、事業資金が不動産に固定化され、経営の自由度が低下するリスクがあります。
建物の老朽化に伴う修繕や設備の更新は、すべて所有者である自社の責任と負担になります。
計画的な修繕積立がなければ、突発的な大口出費が経営を圧迫する可能性があります。
事業拠点を移したくても、不動産はすぐに売却できるとは限りません。
市況によっては希望価格で売れなかったり、買い手が見つからなかったりするリスクがあり、経営の柔軟性を損なう要因となります。
役員個人が購入し、法人に貸す場合
経営者個人が自宅兼事務所などを購入し、その一部または全部を自身の法人に貸し出す形態です。
個人が購入するメリット
法人の業績が安定していれば、法人から個人へ安定した家賃収入が入り、ローン返済に充当しながら個人の資産を形成できます。
自宅兼事務所として利用し、一定の要件(居住用部分の床面積割合が50%以上など)を満たす場合、役員個人が住宅ローン控除を受けられる可能性があります。
ただし、事務所として使用する部分は控除の対象外となるため、控除額は減額されます。
この制度は要件が複雑なため、必ず税理士などの専門家に相談が必要です。
個人が購入するデメリット
法人から役員個人へ支払う家賃は、近隣の相場などを基にした客観的で適正な金額でなければなりません。
不当に高い賃料を設定すると、差額分が役員賞与とみなされ、法人側で損金算入が認められない「二重課税」のリスクが生じます。
ローンの名義は役員個人であるため、万が一法人の業績が悪化しても、個人として返済義務を負い続けることになります。
税務という視点からみた両者のポイント
税務上の大きな違いは「経費計上の方法」です。賃貸の場合、支払った家賃は原則として全額がその年の経費になります。これにより損益計算がシンプルで、節税効果も直ちに表れます。
一方、購入の場合は「減価償却」という形で費用化されます。土地は経費にできませんが、建物部分については耐用年数に応じて毎年少しずつ経費に計上します。
そのため、短期的な節税効果は賃貸より小さく見えます。ただし、個人で自宅兼事務所を購入した場合には、住宅ローン控除という強力な節税策が使えるため、長期的には税負担を軽減できる可能性があります。
いずれを選択するかの判断基準
最終的にどちらを選ぶべきか、以下の3つの視点から総合的に判断しましょう。
判断基準① 企業のライフステージと資金力
- 創業期、成長期:手元資金を事業に集中させ、柔軟性を確保したい場合は「賃貸」が合理的です。
- 安定期、成熟期:資金力に余裕があり、長期的な経営基盤を固めたい場合は「法人での購入」が有力な選択肢となります。
判断基準② 事業の将来性と計画
- 将来的な人員増減や拠点移転の可能性が高い事業モデル:「賃貸」が適しています。
- 地域に根差した事業で、長期間同じ場所で経営を続ける計画:「購入」のメリットが大きくなります。
判断基準③ 税務・財務戦略
- 短期的な節税とシンプルな経理処理を優先:「賃貸」。
- 長期的な節税と資産形成、そして信用力向上を重視:「購入」。
- 経営者個人のライフプランと資産形成も考慮:「役員個人での購入」も視野に。ただし税務リスクの十分な理解が前提。
まとめ
事務所の賃貸と購入の選択は、単なるコスト比較の問題ではありません。
企業の成長ステージ、将来の事業計画、そして税務・財務戦略が複雑に絡み合う、重要な経営判断です。
賃貸には「柔軟性」と「即時的な節税効果」が、購入には「資産形成」と「長期的安定」という魅力があります。
どちらの選択が自社にとって最適かを見極めるためには、専門的な知識が不可欠です。
本記事を参考にしつつ、最終的な判断を下す前には、必ず税理士や不動産の専門家などへ相談し、自社の状況に合った最良の道を選択してください。

