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【社労士が解説】産休・育休手続き完全ガイド|給付金はいつ入る?従業員の「無収入期間」トラブルを防ぐ方法

【社労士が解説】産休・育休手続き完全ガイド|給付金はいつ入る?従業員の「無収入期間」を防ぐ方法

「育児休業給付金がまだ振り込まれません」

「産休に入ってから収入がなく、生活費が不安です」

産休・育休を取得する従業員から、人事労務担当者へこうした相談が寄せられることは珍しくありません。

産休・育休中には、出産手当金や育児休業給付金などの経済的支援があります。

しかし、給与のように毎月決まった日に入金されるわけではなく、申請できる時期や審査期間の関係で、休業開始後に2〜3か月程度の無収入期間が生じるケースがあります。

制度上は正しく手続きできていても、従業員が振込時期を知らなければ、「会社が申請を忘れているのではないか」という不信感につながりかねません。

この記事では、社会保険労務士の視点から、産休・育休手続きの全体像と必要書類、給付金の振込が遅く感じられる理由、休業前に企業が伝えるべき内容を解説します。

目次
  1. 産休・育休手続きの全体の流れ|会社がやることを時系列で整理
    1. 1.妊娠・出産の申出を受けたら、まず休業予定を確認する
    2. 2.産前休業が始まったら「産前産後休業中の社会保険料免除」を申請する
    3. 3.出産後は実際の出産日を確認し、「出産手当金」の申請をする
    4. 4.産後休業が終わり育児休業が始まったら「育児休業中の社会保険料免除」を申請する
    5. 5.育児休業開始後は「育児休業給付金」の初回申請を行う
    6. 6.初回申請後は、育児休業給付金を継続して申請する
    7. 人事労務担当者が覚えておきたい3つの申請先
  2. なぜ「給付金がまだ入らない」とトラブルになるのか?
    1. 出産手当金が振り込まれる時期の仕組み
    2. 育児休業給付金が振り込まれる時期の仕組み
    3. 従業員は「給付金=給与の代わり」と考えやすい
  3. 休業前に企業が伝えておくべき「手取り・振込スケジュール」
    1. 最終給与の支給日を確認する
    2. 休業中の社会保険料を説明する
    3. 住民税の支払い方法を確認する
    4. 休業前面談で使える説明項目
  4. 育児休業給付金の金額の試算ルール
    1. 育児休業給付金の基本的な計算方法
    2. ボーナスは計算に含まれる?
    3. 「基礎日数11日以上」とは?
    4. 産休前に欠勤や休職がある場合は要注意
  5. 出産手当金の金額の試算ルール
    1. 出産手当金の計算方法
  6. 社労士の現場から:トラブルの原因は「申請漏れ」だけではありません
  7. 手続き漏れ・計算ミスを減らすバックオフィス自動化
    1. 産休・育休手続きで自動化しやすい業務
    2. 労務SaaSを導入しても手作業が残る理由
  8. 産休・育休手続きに関するよくある質問
    1. 育児休業給付金はいつ振り込まれますか?
    2. 出産手当金は産休中に毎月振り込まれますか?
    3. 育児休業給付金の計算に残業代は含まれますか?
    4. 育休中に少し働いた場合でも給付金は受け取れますか?
  9. まとめ:トラブル防止の鍵は、申請より前の「見える化」

産休・育休手続きの全体の流れ|会社がやることを時系列で整理

会社の人事労務担当者が行う主な手続きは、①休業予定の確認、②産前産後休業中の社会保険料免除、③出産手当金の申請、④育児休業中の社会保険料免除、⑤育児休業給付金の申請です。

特に注意したいのが、社会保険料の免除は年金事務所、出産手当金は健康保険、育児休業給付金はハローワークと、手続きごとに申請先が異なることです。

まずは全体像を整理すると、次のようになります。

タイミング会社がすること主な書類申請・提出先
妊娠・出産の申出時出産予定日・休業予定を確認、制度の個別周知・意向確認育児休業制度等の個別周知資料など社内
産前休業開始後産前産後休業中の社会保険料免除を申請産前産後休業取得者申出書事務センター・管轄の年金事務所
出産後実際の出産日を確認し、必要に応じて産休日程を修正産前産後休業取得者変更(終了)届など事務センター・管轄の年金事務所
産休期間経過後など出産手当金申請の事業主証明を行い申請出産手当金支給申請書加入する健康保険
育児休業開始後育児休業中の社会保険料免除を申請育児休業等取得者申出書事務センター・管轄の年金事務所
育児休業開始後育児休業給付の受給資格確認・初回支給申請休業開始時賃金月額証明書、初回支給申請書など事業所所在地を管轄するハローワーク
育休中原則2か月ごとに育児休業給付金を申請育児休業給付金支給申請書などハローワーク

それぞれ、順番に詳しく見ていきます。

1.妊娠・出産の申出を受けたら、まず休業予定を確認する

最初に会社が行うのは、出産予定日と産休・育休の予定を確認し、育児休業制度等を個別に周知したうえで取得意向を確認することです。

従業員から妊娠・出産の申出を受けたら、次の内容を確認しておきましょう。

  • 出産予定日
  • 産前休業を開始する予定日
  • 育児休業を取得する予定があるか
  • 育児休業の開始予定日・終了予定日
  • 復職予定時期
  • 復職後の時短勤務等の希望

産前休業は、本人から請求があった場合、原則として出産予定日の6週間前、多胎妊娠の場合は14週間前から取得できます。

また、産後は原則として出産日の翌日から8週間、従業員を就業させることができません。

会社には、妊娠・出産の申出をした従業員に対し、育児休業制度等を個別に周知し、取得意向を確認することも求められています。

この段階では外部機関への給付金申請はまだ行いませんが、後の手続き期限を管理するため、出産予定日を起点として社内のスケジュールを作っておくことが重要です。

2.産前休業が始まったら「産前産後休業中の社会保険料免除」を申請する

産前産後休業が始まったら、会社は「産前産後休業取得者申出書」を提出し、健康保険・厚生年金保険料の免除手続きを行います。

この手続きは従業員本人ではなく、従業員から申出を受けた事業主が行う手続きです。

  • 手続き名: 産前産後休業中の社会保険料免除
  • 提出書類: 健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書
  • 提出先: 事務センターまたは管轄の年金事務所
  • 提出時期: 産前産後休業期間中、または休業終了日の翌日から1か月以内

日本年金機構でも、産前産後休業期間中または終了後1か月以内に事業主が申出書を提出することとされています。

この申出を行うことで、原則として産前産後休業を開始した月から、休業終了日の翌日が属する月の前月までの健康保険料・厚生年金保険料が、本人分・会社負担分ともに免除されます。

なお、実際の出産日が予定日と異なった場合には、産前産後休業期間も変わることがあります。

出産後に実際の出産日を必ず確認し、必要に応じて変更の手続きを行いましょう。

3.出産後は実際の出産日を確認し、「出産手当金」の申請をする

出産後は実際の出産日を確認し、出産手当金を申請する従業員について、会社が事業主証明を行います。

出産手当金は、健康保険の被保険者本人が出産のため仕事を休み、その間に給与の支払いを受けていないなどの要件を満たした場合に支給されます。

対象期間は原則として、

  • 出産日以前42日間
  • 多胎妊娠の場合は出産日以前98日間
  • 出産日の翌日から56日間

です。

会社の人事労務担当者は、主に次の対応を行います。

  • 実際の出産日を確認する
  • 出産手当金支給申請書の事業主記入欄を作成する
  • 休業期間中の給与支払い状況を証明する

手続きを整理すると次のとおりです。

  • 手続き名: 出産手当金
  • 申請書類: 健康保険出産手当金支給申請書
  • 申請先: 従業員が加入している健康保険
  • 協会けんぽの場合: 加入する協会けんぽ都道府県支部
  • 申請時期: 支給対象となる産休期間の経過後に申請

協会けんぽでは、紙申請の場合は加入する協会けんぽ支部が提出先です。

なお、出産手当金支給申請書には、会社の記入だけでなく、医師または助産師の証明が必要です。

本人記入欄と医師または助産師の証明を記入した状態で会社に提出するよう、事前に従業員に伝えておく必要があります。

4.産後休業が終わり育児休業が始まったら「育児休業中の社会保険料免除」を申請する

育児休業が始まったら、会社は改めて「育児休業等取得者申出書」を提出します。産休中の社会保険料免除とは別の手続きです。

女性従業員の場合、通常は産後休業終了日の翌日から育児休業が始まります。

ここで注意したいのが、産前産後休業中に社会保険料免除の手続きを済ませていても、そのまま自動的に育児休業期間の免除へ切り替わるわけではないことです。

育児休業についても、会社から別途申出を行います。

  • 手続き名: 育児休業中の社会保険料免除
  • 提出書類: 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書
  • 提出先: 事務センターまたは管轄の年金事務所
  • 提出時期: 育児休業期間中、または育児休業終了日の翌日から1か月以内

この申出も、従業員本人ではなく事業主が行います。

原則として、育児休業開始日の属する月から、育児休業終了日の翌日が属する月の前月までの毎月の報酬にかかる健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。

また、同一月内の短期間の育児休業でも、一定の要件を満たす場合には保険料免除の対象となるため、短期間の育休についても手続き漏れがないよう注意しましょう。

5.育児休業開始後は「育児休業給付金」の初回申請を行う

育児休業給付金は、社会保険料免除とは別に、雇用保険の手続きとして事業所所在地を管轄するハローワークへ申請します。

ここが産休・育休手続きの中でも特に混同されやすいポイントです。

  • 社会保険料免除 → 年金事務所
  • 出産手当金 → 健康保険
  • 育児休業給付金 → ハローワーク

と覚えておくと整理しやすくなります。

育児休業給付金の初回申請では、一般的に次の書類を使用します。

  • 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
  • 育児休業給付受給資格確認票・初回育児休業給付金支給申請書
  • 賃金台帳
  • 出勤簿またはタイムカード
  • 育児休業申出書など、育児休業期間を確認できる書類
  • 出産日や親子関係を確認できる書類
  • 必要に応じて振込先口座を確認できる書類

手続きを整理すると、

  • 手続き名: 育児休業給付金の受給資格確認・初回支給申請
  • 提出先: 事業所の所在地を管轄するハローワーク
  • 申請主体: 原則として事業主が従業員に代わって申請
  • 申請時期: 初回の支給対象期間が経過した後、所定の申請期限まで

です。

初回は、受給資格確認と育児休業給付金の支給申請を同時に行うこともできます。

育児休業給付金は給与のように育児休業開始直後から毎月振り込まれるものではありません。

一定期間が経過してから申請する仕組みのため、初回入金まで2〜3か月程度空くケースがあることも、休業前に従業員へ説明しておきましょう。

6.初回申請後は、育児休業給付金を継続して申請する

初回の育児休業給付金を申請した後も、育児休業中は原則として2か月ごとに支給申請が必要です。

人事労務担当者は、その都度、

  • 対象期間中の就業日数・就業時間
  • 会社から支払った賃金
  • 育児休業を継続しているか

などを確認して支給申請を行います。

育児休業中に一部就業した場合や給与を支払った場合には、給付額が減額されたり不支給になったりする可能性があるため、勤怠・給与データとの照合も重要です。

人事労務担当者が覚えておきたい3つの申請先

産休・育休では複数の手続きが並行しますが、まずは次の3つを分けて考えると整理しやすくなります。

  1. 社会保険料を免除する手続き
    → 事務センター・管轄の年金事務所
    → 産休開始時と育休開始時のそれぞれで手続きを行う
  2. 出産手当金を受け取る手続き
    → 従業員が加入する健康保険
    → 産休期間終了後に手続きを行う
  3. 育児休業給付金を受け取る手続き
    → 事業所所在地を管轄するハローワーク
    → 育休開始後2ヶ月ごとに手続きを行う

この3つを一つの「産休・育休手続き」としてまとめて管理すると漏れやすいため、「いつ・何を・どこへ提出するか」を従業員ごとに時系列で管理する仕組みを作っておくことが大切です。

なぜ「給付金がまだ入らない」とトラブルになるのか?

給付金が遅いと感じられる最大の理由は、休業に入った直後には申請できない給付があるためです。

特に育児休業給付金は、原則として2か月分の支給対象期間が経過した後に申請するため、休業開始から初回入金まで数か月空くことがあります。

出産手当金が振り込まれる時期の仕組み

出産手当金は、産休に入った日に自動的に振り込まれるものではありません。

申請書には、実際に休んだ期間と、その期間に会社から給与が支払われたかどうかを記載する必要があります。

このため、産休期間の経過後に申請するケースが多くなります。

産前分と産後分を分けて申請することもできますが、医師・助産師や会社の証明が必要になるため、申請回数が増えると本人・企業双方の負担も増えます。

協会けんぽでは、審査の結果、支給可能であれば受付日から10営業日以内に支払うと案内しています。ただし、不備や確認事項があれば、それ以上かかる可能性があります。

つまり、実際の入金日は次の要素で変わります。

  • いつ申請書を作成できるか
  • 本人・医師・会社の記載がいつ揃うか
  • 会社または本人がいつ提出するか
  • 保険者の審査にどの程度時間がかかるか

「審査にはそれほど時間がかからない」としても、申請できる状態になるまでに時間がかかる点が、従業員には分かりにくい部分です。

育児休業給付金が振り込まれる時期の仕組み

育児休業給付金は、原則として1か月ごとの「支給単位期間」を確認し、通常は2か月分をまとめて申請します。

たとえば、育児休業が4月10日に始まった場合、最初の2つの支給単位期間は、おおむね次のようになります。

  • 第1支給単位期間:4月10日から5月9日
  • 第2支給単位期間:5月10日から6月9日

この2期間が終わってから、期間中の就業日数や賃金支払いの有無を確認し、申請します。

その後にハローワークの審査と振込が行われるため、初回の入金が育児休業開始から2〜3か月後になることは、制度上あり得ます。

なお、具体的な処理期間は申請先や混雑状況、不備の有無によって変わります。東京労働局のように、電子申請の処理状況を随時公開している労働局もあります。

従業員は「給付金=給与の代わり」と考えやすい

従業員にとっては、給与が止まった後の生活費を補う重要なお金です。

そのため、人事担当者が制度の説明だけをしても、実際の入金時期を伝えていなければ、不安は解消されません。

休業前に企業が伝えておくべき「手取り・振込スケジュール」

企業が休業前に伝えるべきなのは、制度名の一覧ではなく、従業員本人の予定日に合わせた入出金スケジュールです。

少なくとも、最終給与、社会保険料、出産手当金、育児休業給付金の見込み時期を1枚にまとめましょう。

最終給与の支給日を確認する

給与は、「当月締め当月払い」「月末締め翌月払い」など、会社によって締日と支払日が異なるため、産休開始日が同じでも、給与規程によって最終給与の支給日は変わります。

また、休業開始月の給与が日割りになるのか、欠勤控除が翌月給与に反映されるのかも確認が必要です。

休業中の社会保険料を説明する

産前産後休業および育児休業について所定の申出を行うと、対象期間の健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。

ただし、給与の締日や社会保険料を当月徴収・翌月徴収のどちらで運用しているかによって、休業に入った後の給与から社会保険料が控除されることがあります。

制度上の免除開始月だけでなく、給与明細上、最後にいつ社会保険料が引かれるのかまで伝えると、従業員の不安を減らせます。

住民税の支払い方法を確認する

産休・育休中も、前年所得に基づく住民税の支払いは続きます。

給与が支給されなくなる場合、会社での特別徴収を継続できないこともあるため、次のいずれで対応するかを確認します。

  • 休業前の給与や賞与からまとめて徴収する
  • 本人が普通徴収で支払う
  • 復職後の給与から調整する

休業に入ってから納付書が届き、従業員が驚くことのないよう、事前説明が必要です。

休業前面談で使える説明項目

休業前面談では、次の項目を一覧化して説明するとよいでしょう。

確認項目説明する内容
産前休業開始日最終の給与支給日はいつか
最終給与支給日満額・日割り・欠勤控除の有無
社会保険料免除対象月と最後の控除月
住民税休業中の徴収方法
出産手当金申請時期、概算額、振込見込み時期
育児休業給付金初回申請時期、概算額、振込見込み時期
賞与支給対象となるか、社会保険料免除の扱い
会社への連絡出産後に提出・連絡する事項
復職手続き復職予定日と時短勤務の申出時期

育児休業給付金の金額の試算ルール

育児休業給付金は、原則として育児休業開始前6か月の賃金を基に計算します。

また、計算対象月は原則として、賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または一定の場合に就業時間数が80時間以上ある月です。

育児休業給付金の基本的な計算方法

育児休業給付金の基本額は、次の考え方で算出されます。

休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 給付率

休業開始時賃金日額は、原則として休業開始前6か月間の賃金総額を180で割って計算します。通常、1支給単位期間の支給日数は30日です。

給付率は原則として次のとおりです。

  • 育児休業開始から180日目まで:67%
  • 181日目以降:50%

ただし、休業期間中に会社から賃金が支払われた場合は、給付金が減額または不支給になることがあります。

ボーナスは計算に含まれる?

賞与は、休業開始時賃金日額の計算には含まれません。

そのため、「年収の67%が受け取れる」と説明すると、賞与の割合が大きい従業員では実態とのずれが生じます。

たとえば、次の2人が同じ年収600万円でも、毎月の給与と賞与の内訳によって給付額は変わります。

  • Aさん:月給50万円、賞与なし
  • Bさん:月給35万円、年間賞与180万円

年収は同じでも、育児休業給付金の計算基礎となる月例賃金はBさんの方が低くなるため、給付額も低くなる可能性があります。

企業が概算額を案内する場合は、年収ではなく、対象となる月例賃金を使って試算する必要があります。

「基礎日数11日以上」とは?

育児休業開始時賃金月額を算定する際は、原則として賃金支払基礎日数が11日以上ある月を確認します。

賃金支払基礎日数とは、単純な出勤日数とは限りません。

月給者の場合、有給休暇や給与計算方法によって扱いが変わるため、賃金台帳だけで機械的に判断せず、出勤簿や給与規程も確認する必要があります。

賃金支払基礎日数が11日未満でも、就業時間数が80時間以上であれば算定対象になる場合があります。

産休前に欠勤や休職がある場合は要注意

育児休業に入る前に、つわりや切迫早産などで欠勤・休職していた場合、通常どおり直前の暦月6か月だけで計算できないことがあります。

対象月の賃金支払基礎日数や就業時間数を確認し、要件を満たす月をさかのぼって6か月分そろえる必要があります。

この確認を誤ると、給付額に影響するだけでなく、ハローワークから補正を求められ、初回振込が遅れる原因にもなります。

出産手当金の金額の試算ルール

出産手当金と育児休業給付金は、支給元も計算基礎も異なります。

出産手当金は健康保険の標準報酬月額を基に計算します。

出産手当金の計算方法

協会けんぽにおける出産手当金の1日当たりの支給額は、原則として次の計算です。

支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 3分の2

給与が支払われた場合でも、給与の日額が出産手当金の日額より少なければ、差額が支給される場合があります。

社労士の現場から:トラブルの原因は「申請漏れ」だけではありません

産休・育休に関する相談で多いのは、単純な申請忘れだけではありません。

むしろ、手続き自体は進んでいるものの、従業員への説明が不足しているケースが目立ちます。

たとえば、人事担当者は「2か月分が確定したら申請する」と理解していても、従業員にはその仕組みが伝わっていません。従業員から見れば、給与が止まったのに何の入金もない状態です。

その結果、産後の心身ともに負担が大きい時期に、

  • 会社は本当に申請してくれたのか
  • 書類に不備があったのではないか
  • いつまで貯金で生活しなければならないのか

という不安を抱えることになります。

私が実務で特に大切だと感じるのは、申請完了後の報告だけではなく、休業前に「無収入になり得る期間」を伝えることです。

「給付金が出ます」だけではなく、「初回の入金まで2〜3か月程度かかる可能性があります」と具体的に伝え、本人の給与条件に応じた概算額とスケジュールを示すことが、トラブル防止につながります。

このように、制度知識だけでなく、従業員の生活や感情面を想像した案内を行うことが、人事労務担当者の重要な役割です。

手続き漏れ・計算ミスを減らすバックオフィス自動化

産休・育休手続きは、完全自動化するのではなく、期限管理・データ転記・一次点検を自動化し、最終判断を人が行う設計が適しています。

特に、給与・勤怠・社会保険・雇用保険のデータが分断されている企業では、担当者の記憶やExcel管理だけに頼らない仕組みづくりが必要です。

産休・育休手続きで自動化しやすい業務

産休・育休対応では、次のような業務を自動化できます。

  • 出産予定日から産休開始日を自動計算する
  • 育児休業開始日と申請期限を管理する
  • 従業員ごとの必要書類を自動表示する
  • 未提出書類をアラートで通知する
  • 給与・勤怠データから給付金の概算額を算出する
  • 賃金台帳と出勤簿の不整合を検知する
  • 社会保険料免除の申出漏れを検知する
  • 従業員向けの案内文を作成する
  • 申請状況と振込見込みを一覧管理する

こうした定型業務をAIやシステムに任せることで、人事担当者は、休業前面談や復職支援、働き方の調整といった、人にしかできない業務へ時間を使えるようになります。

労務SaaSを導入しても手作業が残る理由

労務SaaSを導入しただけで、産休・育休手続きがすべて自動化されるとは限りません。

実務では、次のような作業が残りがちです。

  • 給与システムから賃金額を転記する
  • 勤怠システムから基礎日数を確認する
  • 出産予定日と実際の出産日の差を修正する
  • 産休と育休で異なる申請先を管理する
  • 本人への案内メールを個別に作成する
  • 申請後の進捗を別の管理表へ入力する

原因は、ツールの機能不足だけではありません。

給与の締日、社会保険料の徴収方法、手当の性質、独自の申請フローなど、会社ごとの前提条件が整理されていないことも大きな要因です。

「ツールに業務を合わせる」のではなく、最初に自社のルールを整理し、そのルールに沿ってデータ連携とチェック工程を設計する必要があります。

AIは人事労務担当者に代わる存在ではなく、転記・照合・一次点検を担うパートナーです。

自動化によって生まれた時間を、従業員への丁寧な説明や復職支援に充てることが、バックオフィス自動化の本来の目的です。

産休・育休手続きに関するよくある質問

育児休業給付金はいつ振り込まれますか?

初回は、育児休業開始から2〜3か月以上後になることがあります。

育児休業給付金は通常、2つの支給単位期間が経過した後に申請します。

その後、ハローワークの審査を経て振り込まれます。

申請時期、不備の有無、ハローワークの処理状況によって入金日は異なるため、企業は確定日ではなく「申請予定日」と「入金時期の目安」を案内しましょう。

出産手当金は産休中に毎月振り込まれますか?

原則として給与のような毎月払いではなく、申請した対象期間分が審査後に支給されます。

産前分・産後分を分けて申請することもできますが、会社や医師・助産師の証明が必要です。

従業員の資金計画と事務負担を考慮し、申請方法を決めましょう。

育児休業給付金の計算に残業代は含まれますか?

毎月の労働の対価として支払われる残業代は、原則として賃金に含まれます。

一方で、賞与など臨時で支給されるものは通常、休業開始時賃金日額の計算には含まれません。

月給だけを見て試算せず、対象6か月分の賃金台帳を確認する必要があります。

育休中に少し働いた場合でも給付金は受け取れますか?

就業日数や就業時間、支払われた賃金額によっては受給できますが、減額または不支給になる場合があります。

休業中の就業を予定している場合は、事前に働く日数・時間と賃金を確認し、支給要件への影響を判断する必要があります。

まとめ:トラブル防止の鍵は、申請より前の「見える化」

産休・育休手続きでは、期限どおりに申請することはもちろん重要です。

しかし、従業員とのトラブルを防ぐために最も大切なのは、休業前に次の内容を見える化することです。

  • 給与がいつまで支給されるか
  • 社会保険料がいつまで控除されるか
  • 住民税をどのように支払うか
  • 出産手当金をいつ申請するか
  • 育児休業給付金の初回申請はいつか
  • 初回振込まで何か月程度かかる可能性があるか
  • それぞれの給付額はいくらになる見込みか

産休・育休を取得する従業員にとって、数か月の無収入期間は大きな不安です。

制度名と給付率だけを説明するのではなく、本人の出産予定日や給与条件に合わせて、具体的なスケジュールと概算額を示しましょう。

また、期限管理や転記、一次点検をAI・システムで効率化すれば、人事担当者は、従業員への説明や復職支援により多くの時間を使えます。

産休・育休についての給付や手続きについてはこちらの記事もご覧ください。

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Conduct

植西 祐介
コンダクトグループ(株式会社コンダクト/税理士法人コンダクト/社会保険労務士法人コンダクト) 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士